この島料理。かつて島に流された流人が赦されて本土に戻るとき、島人がお祝いに作ったであろうと思われる料理を再現したものだ。当然ながら、野菜も魚も、八丈島産のものだけを使う。あしたばこんにゃく、岩のり、かみなり大根、とこぶし、ムロアジの煮付け、里芋、しのだけなど、大きなゴムの葉を皿がわりにし、島の花々をあしらって、豪華絢爛。
なかでもサクラダイの塩釜は、素材を塩で丸々と包み込み、外から焼き上げるたもの。木槌でゴツゴツと固めた塩釜を割れば、まるまる一匹蒸し上げられた鯛が、香ばしい香りを漂わせてくれる。程よい塩加減な味付けで一口ごとに黒潮で鍛えられた鯛の旨味をたっぷりと堪能できる。塩釜を割るとき、木槌を思いっきり叩く行為も、この食事の魅力だろう。鬱憤はらしになることは間違いない。デザートはやはり島で採れた島の果物が出てくる。なかでも季節限定の島瓜は一度ご賞味あれ。別称「ばばごろし」といわれるこの瓜は繊維質たっぷりで、甘味も少ない。瓜だとわからなければ、芋をかじっているような食感だ。「ばばごろし」といわれる由縁は美味しくて誰もがひっくりかえってしまうほどの果物という説や、あまりのまずさにみんなびっくりしまうという説があるが、私は後半をとる。とにかくマズイ。島の人でもはちみつをかけたり、砂糖をかけたりして食べるくらい、味がない果物である。いっそう、醤油をかけたら……なあんて、思うほど、自分の味覚で果物だという認識ができない代物である。
思えば、流人のために栄養を考え、元気で送り出すために作りはじめた「御赦免料理」。誰もが満足するために、ありとあらゆる料理をふるまったものなのだ。すべて島の風土の中で伝統食材が、時間をかけて育まれて生まれたものばかり。甘味、辛味、苦味、旨味が各料理に凝縮しているご馳走である。
さ、百聞は一見にしかず。自分の好みの八丈島料理を一品、探せるチャンスに是非、チャレンジあれ。
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